東京高等裁判所 平成元年(行コ)118号 判決
控訴人
鈴木信夫
同
田口正明
同
安田勝彦
同
丸山建藏
同
齋藤清
同
槇正義
右控訴人ら訴訟代理人弁護士
佐藤義弥
同
竹澤哲夫
同
尾山宏
同
岡村親宜
被控訴人
神奈川食糧事務所長
石崎新一郎
同
三重食糧事務所長
佐藤源
同
奈良食糧事務所長
堀川梅藏
同
新潟食糧事務所長
長田俊二
同
島根食糧事務所長
前田重太郎
同
山形食糧事務所長
渡邉利久
右被控訴人ら指定代理人
佐村浩之
外八名
主文
本件各控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
一 控訴人らは、「一 原判決を取り消す。二 被控訴人らが、原判決末尾添付の別紙処分一覧表の被控訴人らに対応する控訴人らに対して、昭和五八年四月一四日付をもってそれぞれなした右一覧表の懲戒処分欄記載の各懲戒処分をいずれも取り消す。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人らは、控訴棄却の判決を求めた。
二 当事者双方の主張は、後記理由中の各項の冒頭に掲記し、原審以来当事者双方の争点とされている点のほか、原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。
三 証拠関係は、原審記録並びに当審記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
四 当裁判所も、控訴人らの本件各懲戒処分の取消しを求める請求は理由がなく、本件訴えはいずれもこれを棄却すべきものと判断するが、その理由は、争点につき以下に敷衍ないし補足するほか、原判決理由説示のとおりであるから、これを引用する。
1 まず、控訴人らは、国公法九八条二項の規定は国家公務員労働者の争議行為を一律全面禁止するものであるから、右条項は労働基本権を保障する憲法二八条に違反し違憲無効なものであると主張する。しかしながら、国公法九八条二項が公務員の争議行為等を禁止するのは、国民全体の共同利益の見地からするやむを得ない制約というべきであって、憲法二八条に違反するものではないと解するのが相当である(最高裁昭和四三年(あ)第二七八〇号同四八年四月二五日大法廷判決・刑集二七巻四号五四七頁参照)。その他、控訴人らが同条項が違憲であるとして独自の解釈をもって縷々主張するが、いずれも採用することができない。
2 次に、控訴人らは、仮に、国公法九八条二項の規定が憲法二八条に違反しないものであるとしても、公務員の労働基本権制限の代償措置が機能を果さない場合にその機能を果させるよう要求してなされる争議行為に対して国公法九八条二項を適用して懲戒処分を課すことは、適用上違憲であると主張し、右同条項の適用による処分が適用上の違憲となるかの判断基準は、前掲最高裁判所大法廷判決における、岸・天野追加補足意見のいうところの、公務員の争議を制約することに見合う代償措置が画餅に等しいと見られる事態が生じた場合かどうかをもって、その判断基準とされるべきであると主張する。そこで進んで、本件において、公務員の争議行為を制約するに見合う代償措置が画餅に等しいと見られる事態が生じたかどうかについても、以下に若干検討する。
(一) 前記引用に係る原判決挙示の各証拠によれば、次の事実が認められる。
(1) 公務員の給与の改定に関する人事院勧告は、昭和二三年の第一回勧告以来、改定の金額或は改定の実施時期において完全な実施が見送られるという状態が続いたが、昭和四五年に至って完全に実施されるようになり、その際、佐藤栄作内閣総理大臣は、同年一二月三日開催の第六四回国会衆議院本会議において、人事院勧告はこれを尊重するというのが公務員法の趣旨からして当然のことであり、今回実現した完全実施の建前を今後とも実施してまいりたいと考えている旨発言している。
その後、政府は、昭和四五年から昭和五五年まで一一年間にわたり人事院勧告に全面的に従って公務員の給与の改定を実施したが(但し、昭和五四年度及び昭和五五年度の勧告については、指定職職員の給与改定の実施時期を除く。)、この一一年間の人事院勧告の完全実施について、昭和五六年八月一八日開催の第九四回国会衆議院内閣委員会及び同月二〇日開催の参議院内閣委員会において、総理府総務長官は、昭和四五年以来人事院勧告の完全実施という慣習が慣熟して労使の関係が非常に安定した状態を維持してきており、それが社会一般に非常に良い結果を与えている旨の発言をし、また、同年一〇月一五日開催の第九五回国会参議院内閣委員会において、内閣官房長官は、人事院勧告を完全実施するということは、ここ一〇年来ほぼ慣熟した慣行になり、それが我が国の労使関係をこのような安定したものにしていることに大きな寄与をしていることも事実である旨の発言をしている。
(2) ところが、政府は、昭和五六年一一月二七日同年度の人事院勧告について、財政状態が逼迫していることを理由として、一般職の職員については勧告通り同年四月一日から給与の改定を行うが、指定職及び本省課長等の職員については翌五七年四月一日から給与の改定を行い、期末勤勉手当は昭和五五年度の俸給等を基準に算定した額とすることなどを内容とする閣議決定をし、これに基づく一般職の職員の給与に関する法律の一部改正案を国会に提出し、国会はこれを可決した。その際、鈴木善幸内閣総理大臣は、昭和五六年一一月二六日開催の第九五回国会参議院行財政改革に関する特別委員会、内閣委員会、地方行政委員会、大蔵委員会連合審査会において、今年は財政非常の事態であるので異例の措置をとったが、このような異例の措置が毎年繰り返されるようであれば、まさに人事院制度の根幹に触れるような結果になるので、今後は人事院制度或はその勧告の重みというものを十分心得て誠意をもって取り組んでいく所存である旨発言した。
(3) 昭和五七年に入り、同年四月一四日に日本公務員労働組合共闘会議が提出した要求書に対し、総理府総務長官は、人事院勧告は、労働基本権制約の代償措置のひとつと理解しており、それを尊重するのが基本的建前であること、逼迫した財政事情をはじめ極めて厳しい状況下にあることを前提として、昭和五七年度の人事院勧告の取り扱いには誠意をもって努力する旨明言した。
同年八月六日、人事院は、国家公務員法及び一般職の職員の給与に関する法律の規定に基づき内閣と国会に対して一般職の非現業公務員の給与を平均4.58パーセント(一万〇七一五円)増額改定することを中心とする勧告をしたところ、政府は、同日、同年九月一日及び同月二〇日の三回にわたり、給与関係閣僚会議を開いて右勧告の取り扱いについて検討したが、同年八月六日に発表された同年六月の税収実績によれば、同年度は前年度に続き巨額の税収不足が避けられない見通しとなったことが明らかとなり、また、大蔵大臣の内閣総理大臣に対する同月二七日の説明によれば、昭和五七年度に予想される税収不足額が当初予算である三六兆六二四〇億円に対して五兆円以上になる可能性があることが明らかとなったので、内閣総理大臣は、同年九月一六日、財政非常事態宣言を行い、政府の歳出圧縮努力にもかかわらず、約二兆五〇〇〇億円の歳入欠陥を生じた昭和五六年度に引き続き昭和五七年度においても五兆円から六兆円程度の減収が予想されること、その中で、国債、国家公務員の給与の改定等について異例の措置を採らざるを得ないと思われること等を述べ、国民の理解と協力を呼び掛けた。
そして、同年九月二四日の閣議において、人事院勧告につき労働基本権の制約、良好な労使関係の維持等に配慮しつつ検討を進めてきたが、未曾有の危機的な財政事情の下において、国民的課題である行財政改革を担う公務員が率先してこれに協力する姿勢を示す必要があることに鑑み、また、官民給与の較差が一〇〇分の五未満であること等を総合的に勘案して、その改定を見送るものとする旨を決定した。
なお、内閣総理大臣は、同日、国家公務員の給与についての談話を発表し、我が国の財政はかつてなく逼迫し、思い切った行政の効率化と歳出の抑制を図ることが緊要な課題となっており、このように逼迫した財政を再建するため、国民各層に痛みを分かち合うことを願わざるを得ない今日、国家公務員が率先して給与改定の見送りを甘受し、難局打開に貢献する姿勢を示すことを切望するものである旨述べるとともに、同年一〇月四日、自ら総評、同盟等関係各労働団体と会見し、今回の措置について理解と協力を求め、また、今回の措置は極めて異例なものであり、このような措置が繰り返されることのないよう最善の努力をする旨を述べている。
(4) 同年一〇月一八日付け等のILOからの要請に対し、政府は、人事院勧告を尊重するという基本方針を堅持しており、今後もこの方針を変える考えはないこと、政府は現実にも従来から人事院勧告を最大限の努力を払って実施してきたが、本年度は遂に財政が未曾有の危機的な状況となったため、極めて異例の措置として、その実施見送りを決定したこと、その際、政府は、関係労働団体に対しこの決定の前後を問わず誠意をもって対応してきたこと、来年度以降の人事院勧告の取り扱いについては、それが政府に提出された時点で国政全般との関連において検討することとなるが、政府としては、今回のような措置が繰り返されることのないよう最善の努力をすることとしていること等を内容とする見解を表明している。
(5) 他方、人事院勧告を受けた国会においては、昭和五七年一一月二六日から同年一二月二五日までの間、同年度の一般会計補正予算等の審議のために開催された第九七回臨時国会において、国家公務員の給与改定の見送りについて議論が行われたが、同月二五日、これを見送ることを前提とした補正予算が成立した。このようにして成立した補正予算の内容は、租税収入等が当初予算より約六兆一四六〇億円減収となる見込みとなったことに伴う歳入不足に対処するため、給与改定の見送りに伴う給与改善費の不要額約六六九億七五〇〇万円を含む既定経費の節減等の歳出補正を行った。
右によれば、昭和五七年度において我国の国家財政は未曾有の危機的な状況にあったものというべきであり、同年度の国家公務員の給与の改定に関する人事院勧告の不実施は、この未曾有の危機的な財政事情というやむを得ない事情によりなされたものといわざるを得ない。
(二) この点につき、控訴人らは、昭和五七年度は未曾有の財政危機ではなかった等と縷々主張する。しかし、たとえ同年度の歳入が前年度に比べて落ち込んでおらず同年度の国債依存度がその後の年度より低くても、六兆円にものぼる巨額の歳入欠陥が予想されたものである以上、財政状態は危機的状況にあったものというべきであり、また、高いレベルにあった当時の国債依存度(約三〇パーセント)に鑑み、赤字国債への依存から脱却し財政を再建することは、緊急な国民的課題であるというべく、この問題が人事院勧告凍結の理由のひとつとなり得ないと解することはできない。なお、巨額の歳入欠陥の原因が、政府の経済成長率の意図的な過大見積りにあるとの控訴人らの主張を証するに足りる証拠はなく、昭和五六年七月一〇日に出された臨時行政調査会の行政改革に関する第一次答申で「増税なき財政再建」がうたわれたように、現実問題として増税により税収の増加を図ることは極めて困難であるから、増税によって人事院勧告実施のための財源を調達すべきであったとすることはできない。
なお、控訴人らは、種々の財源を流用ないし一時借用すれば、人事院勧告を実施することが可能であったと主張するが、しかしながら、その主張する剰余金は、毎会計年度において歳入歳出の決算上生じる剰余の金額であり(財政法四一条)、当該年度の途中において当該年度の剰余金が幾ら出るかを把握することは到底できないものであるから、これを人事院勧告実施のための財源にすることはできない。また、大蔵省証券は当該年度内の国庫金の資金繰りのために発行するものであって、同証券を発行して立て替えた分は当該年度内の歳入で償還しなければならず、これをもって人事院勧告実施のための財源として考えることはできない。そのほか、国債整理基金、外国為替資金特別会計、自動車損害賠償責任再保険特別会計、資金運用部資金特別会計、補助貨幣回収準備資金等は、それぞれ法律上他の目的の財源として使用することができないもの、一般会計への繰り入れが認められないもの或は一般会計への繰り入れについて国会の議決ないし立法措置を要するもの等であって、いずれも大蔵大臣の裁量によって人事院勧告実施のための財源として使用することができないものであるから、これらを流用して人事院勧告実施のための財源にすべきであったとする控訴人らの主張は、採用することができない。
(三) 要するに、政府は、人事院勧告を尊重するという基本方針を堅持し、将来もこの方針を変更する考えはなかったものであるが、昭和五七年当時の国の財政は、前年度の約二兆五〇〇〇億円の決算不足分の問題、六兆円にものぼると見られた当年度の歳入不足の問題等困難な問題を抱える未曾有の危機的な状況にあったため、やむを得ない極めて異例の措置として同年度に限って人事院勧告の不実施を決定したのであって、これをもって違法不当なものとすることはできず、たとえ公務員に争議権が認められていたとしても、給与支給の原資が乏しければ給与の増額は見送らざるを得ないのであるから、右昭和五七年度に限って行われた人事院勧告の不実施をもって直ちに、公務員の争議行為等を制約することに見合う代償措置が画餅に等しいと見られる事態が生じたということはできないものといわざるを得ない。そうすると、いずれにせよ、右の事態が生じていることを前提とする控訴人らの主張は採用の限りでない。
3 さらに控訴人らは、国公法七四条一項は、「すべて職員の分限、懲戒及び保障については、公正でなければならない」と定めているところ、人事院勧告の完全実施の要求は正当なものであり、昭和五七年度における人事院勧告の凍結の理由は不当なものであったから、本件懲戒処分は、この懲戒の根本原則である公正の原則に明らかに違背し、社会観念上著しく妥当を欠くものであって、懲戒権の濫用として違法であると主張するので、以下において、あらためて、本件懲戒処分が裁量権の濫用にあたるかどうかについても補足判断する。
(一) 公務員につき、国公法に定められた懲戒事由がある場合に、懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分を行うときにいかなる処分を選ぶかは、懲戒権者の裁量に任されているものと解すべきであり、懲戒権者が右の裁量権の行使としてした懲戒処分は、それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権を付与した目的を逸脱し、これを濫用したと認められる場合でない限り、その裁量権の範囲内にあるものとして、違法とならないものというべきである(最高裁昭和四七年(行ツ)第五二号、同五二年一二月二〇日第三小法廷判決・民集三一巻七号一一〇一頁参照)。
(二) このような見地に立って本件をみると、前記引用に係る原判決挙示の各証拠によれば、以下の事実が認められる。
(1) 前記2において認定したとおりの経過で昭和五七年度の公務員の給与の改定に関する人事院勧告の不実施が決定されたが、これに対して、全農林は、昭和五七年九月二四日及び二五日に地方本部委員長及び書記長会議を開催し、人事院勧告の完全実施等を闘争目標として二時間を限度とする統一ストライキを臨時国会の山場に配置する闘争態勢を確立することなどを含む八二秋季年末闘争方針草案について討議して大筋の了承を得た。次いで、全農林は、同月二七日に控訴人らが副中央執行委員長又は中央執行委員としてその構成員となっている第八回中央執行委員会を開催し、右のとおり地方本部委員長・書記長会議で大筋の了承を得ていた、人事院勧告の完全実施等を闘争目標とし、最高半日の統一ストライキを臨時国会の山場に配置し、いつでも決行できる闘争態勢を確立すること、ストライキ批准投票は同年一〇月二〇日を目処に完了することの二つの闘争方針を含む八二秋季年末闘争方針案を決定した。全農林はさらに、同年一〇月六日及び七日に第八二回中央委員会を開催して、右中央執行委員会で決定された八二秋季年末闘争方針案を同闘争方針として決定し、同月七日に全農林労働組合第八二回中央委員会名義で、「総評が提起する全一日規模のストライキ戦術を受け、臨時国会ヤマ場においては、日本公務員労働組合共闘会議が決定する最高の戦術をもって断固戦い抜くことを確認し、ストライキ態勢を確立し、組織の総力をあげ要求課題の解決に向け、不退転の決意で戦い抜く」との文言を含む闘争宣言を発表する一方、全農林中央本部は、各地方本部に対し、八二秋季年末闘争方針の全組合員への周知徹底と闘争態勢の確立及び統一ストライキ態勢の確立と批准投票(一〇月二〇日を目処)の実施を内容とする指令を発した。
(2) 全農林中央本部は、同年一〇月一二日から二〇日までの間に八二秋季年末闘争方針を実施するためのオルグ活動を行うこととし、その実施のため、東北地方本部に控訴人鈴木、関東地方本部に同槇、東京都本部及び九州地方本部に同齋藤、東海地方本部に同丸山、中国地方本部に同田口、四国地方本部に同安田をそれぞれ派遣することを決定し、右鈴木は同月一八日に福島種畜牧場において、同月一九日に東北農政局福島統計情報事務所、福島食糧事務所及び東北農政局阿武隈地域総合開発調査事務所において、右安田は同月一三日に高知食糧事務所及び同食糧事務所土佐山田支所において、同月一四日に中国四国農政局高知統計情報事務所須崎出張所及び高知食糧事務所中村支所において、有田口は同月一三日に広島食糧事務所において、同月一四日に中国農業試験場において、同月一五日に中国四国農政局吉井川農業水利事業所、同局岡山海岸保全事業所及び同局土地改良技術事務所において、右丸山は同月一二日に名古屋肥飼料検査所、名古屋農林規格検査所及び東海農政局において、同月一三日に関東農政局静岡統計情報事務所静岡出張所、遠洋水産研究所及び果樹試験場興津支場において、右齋藤は同月一二日に九州農業試験場畑作部及び九州農政局南九州地域総合開発調査事務所において、同月一三日に宮崎種畜牧場において、同月一四日に鹿児島食糧事務所大口支所及び同食糧事務所加治木支所において、同月一五日に鹿児島食糧事務所鹿屋支所及び宮崎種畜牧場鹿児島支場において、同月一八日に東京農林規格検査所において、右槇は同月一六日に東京食糧事務所において、同月一八日に横浜植物防疫所、横浜農林規格検査所及び関東農政局神奈川統計情報事務所が入居している横浜農林水産合同庁舎において、それぞれ本件ストライキのためのオルグ活動を行い、本件各ストライキの実施を指導した。
(3) 全農林は、昭和五七年一二月一一日に緊急拡大戦術委員会(地本委員長会議)を開催し、同月一六日に実施予定の統一ストライキの戦術等について協議して意思統一を図る一方、全農林中央本部において、同月一一日に統一ストライキ態勢確立の準備指令を発したところ、農林水産事務次官は、同月一四日全農林中央執行委員長江田虎臣に対し、同月一六日のストライキを実施した場合には当局は関係法令に基づき厳正な措置をとる考えである旨を述べ、全農林の自重を強く求める旨の警告をしたが、全農林中央本部は、同月一五日ころ、同月一六日に二時間のストライキを実施するよう指令を発し、右指令に基づき農林水産省及びその出先機関の合計四万〇七八六名のうちその九割を超える三万八二八八名の全農林組合員は、同月一六日に始業時から二時間のストライキを行った。次いで、全農林中央本部は、同月二〇日に右ストライキに引き続き同月二四日に実施予定のストライキの準備指令を発したところ、農林水産事務次官事務代理である農林水産大臣官房長は、同月二二日全農林中央執行委員長江田虎臣に対し、全農林が予定している同月二四日のストライキについて前同様の警告をしたが、全農林中央本部は、同月二三日ころ、同月二四日に一時間のストライキを実施するよう指令を発し、右指令に基づき右農林水産省職員のうちその九割を超える三万八五五三名の全農林組合員は、同月二四日に始業時から一時間のストライキを行った。
右によれば、控訴人らは、全農林労働組合の副中央執行委員長又は中央執行委員として、中央執行委員会の本件各ストライキに関する指令の発出に関与し、また、それぞれ地方ヘオルグとして派遣されて本件各ストライキ実施のためのオルグ活動をしたものであるから、控訴人らは、本件各ストライキの遂行を共謀し、そそのかし、若しくはあおったものというべく、国公法九八条二項の規定に違反し、同法八二条一号に該当するものというべきである。
(三) 次に、控訴人らの処分歴及び他の争議行為における処分の程度等についてみると、前記引用に係る原判決挙示の各証拠によれば、控訴人らは本件処分前、控訴人鈴木は減給二回及び戒告一回、同田口は減給五回、同安田は減給四回、同丸山は減給三回及び戒告一回、同齋藤は停職二回及び減給一回、同槇は減給二回の懲戒処分をそれぞれ受けていたものであり、また、農林水産省における争議行為とそれに対する処分は、おおよそ、次のとおりであることが認められる。
(1) 退職手当制度改悪反対、定年制法制化反対、賃上げを闘争目標として、昭和五五年四月一六日に早朝一時間のストライキを実施し、同年七月一一日に中央執行委員らが停職一月等の懲戒処分を受けた。
(2) 統一賃金要求の実現、退職手当法改悪反対及び定年制法制化反対を闘争目標として、昭和五六年四月三日に早朝二九分間のストライキを、定年制法案及び退職手当改悪法案の成立阻止を闘争目標として、同年六月四日に早朝一時間のストライキをそれぞれ実施し、同年七月九日に中央執行委員らが停職二月等の懲戒処分を受けた。
(3) 人事院勧告の完全実施、退職手当法改悪阻止及び反動的行政改革法案成立阻止を闘争目標として、昭和五六年一〇月二九日に早朝二九分間のストライキを、人事院勧告の完全実施を闘争目標として、同年一一月二五日に早朝一時間のストライキをそれぞれ実施し、昭和五七年二月一八日に中央執行委員らが停職二月等の懲戒処分を受けた。
(4) 人事院勧告の完全実施を闘争目標として、昭和五八年一〇月七日に早朝一時間のストライキを、同月二一日に昼休み後二九分間の勤務時間内職場大会をそれぞれ実施し、昭和五九年四月二六日に副中央執行委員長らが停職三月等の懲戒処分を受けた。
(5) 人事院勧告の完全実施、労働基本権確立を闘争目標として、昭和五九年一〇月二六日に早朝二時間のストライキを実施し、昭和六〇年四月二五日に副中央執行委員長らが停職四月等の懲戒処分を受けた。
(6) 賃上げを闘争目標として、昭和六〇年四月一七日に早朝二九分間のストライキを実施し、同年九月一九日に副中央執行委員長らが停職一月等の懲戒処分を受けた。
(四) 以上にみた諸般の事情その他前示の事情を彼此勘案すれば、本件ストライキが暴力を伴わず業務の停滞を防ぐため保安要員を配置するなど弊害の防止に努めた事実があるとしても、本件ストライキは、国民全体の共同の事務である農林水産省の行政事務の正常な運営に大きな支障を与え、国民全体の共同利益を損なう虞れがあったものであるところ、控訴人らは、全農林の副中央執行委員長或は中央執行委員として、本件ストライキ立案の当初からこれに参画し、中央執行委員会の構成員として闘争方針案の決定等に関与したばかりでなく、右闘争方針を実施するためのオルグ活動に参加し、全国各地において二日ないし五日間にわたり本件ストライキの実施を指導するオルグとしての活動を行い、本件ストライキの実施に積極的に関与し指導的な役割を果したものであって、これらの行為は公務員法九八条二項の禁止する争議行為を共謀し、そそのかし、若しくはあおったものというべく、同法八二条一号に該当するとともに、その責任は軽いということはできないといわざるを得ない。そのうえ、控訴人らにはそれぞれ停職、減給等の軽くない懲戒処分を受けた経歴があり、また、本件各懲戒処分が農林水産省における他の争議行為に関する懲戒処分と比較して特に重きに失するということもできないなどからしても、控訴人らが受けた本件懲戒処分が社会通念上著しく妥当性を欠き、裁量権者に任された裁量権の範囲を逸脱した違法のものであるということはできない。
4 以上によれば、本件各懲戒処分の違憲、違法を主張して右各処分の取消しを求める控訴人らの本訴請求はいずれも理由がないことに帰する。
五 よって、本件各懲戒処分の取消請求をいずれも棄却した原判決は相当であって、本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民訴法九五条、八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官宍戸達德 裁判官福島節男 裁判官大坪丘は、転勤のため、署名押印することができない。裁判長裁判官宍戸達德)